【短縮】上陸拒否期間が1年に短縮される制度とは 令和5年改正入管法で何が変わったのか【入管法】
2026/05/12
令和5年の入管法改正により、これまで実現が難しかった「上陸拒否期間の短縮」が可能になりました。不法滞在や難民申請に関わる方々にとって、人生の重要な局面で選択肢が増えたともいえます。本記事では、この新制度について、実務的かつ分かりやすく解説いたします。
改正前の上陸拒否期間の仕組み
入管法改正を理解するには、まず改正前の制度を知ることが重要です。
改正前は、退去強制手続を経た場合、上陸拒否期間が法律で固定されていました。具体的には以下のとおりです。
入管法5条9号に基づく上陸拒否期間
退去強制令書が発付された場合、入管法5条9号の規定により、原則として5年または10年の上陸拒否期間が設定されていました。
「ハ」号に該当する場合は5年、「ニ」号に該当する場合は10年という構造でした。この期間中、対象者は日本への入国が認められず、家族や仕事の事情があっても例外はほぼありませんでした。
例外的に短い期間が認められたケース
唯一の例外として、「出国命令」制度がありました。自ら出頭し、入管当局の指示に従った場合、入管法5条9号「ホ」号により1年間の上陸拒否期間に留められていました。
しかし、この1年の短縮は「出国命令」という限定的な手続に限定されていたのです。退去強制令書が発付されてしまえば、1年の短縮は実現できない状況でした。
令和5年改正入管法による新制度の創設
令和5年の入管法改正は、この課題に正面から取り組みました。新たに「上陸拒否期間の短縮決定」という制度が加えられたのです。
短縮制度の基本的な仕組み
改正後は、退去強制令書が発付されても、以下の条件を満たせば、上陸拒否期間を1年に短縮することが可能になりました。
この制度の意義は大きいものがあります。これまで「強制送還される」と決定された後は、いかなる事情があっても期間短縮の道がありませんでした。しかし新制度により、本人の行動と事情次第で、人生をリセットする期間を大幅に短縮できる可能性が開かれたのです。
短縮を受けるための3つの要件
短縮決定を受けるには、複合的な要件を満たす必要があります。
第一に、自費で出国することを申請しなければなりません。これは、強制送還ではなく自発的な出国という意思表示です。強制的に連れ出されるのではなく、自らの決断で出国するという意志が求められます。
第二に、入管法52条5項に基づく短縮の申請を行うことです。この手続は重要なステップで、単に「出国します」と述べるだけでは足りません。正式な申請手続を通じて、短縮理由を説明する必要があります。
第三に、入管当局が「相当と認める場合」という要件です。これは申請者の素行、経緯、事情などを総合的に判断し、短縮を認めることが妥当だと判断されることです。この判断は申請者の過去の行為、日本での生活状況、出国後の生活設計など、多角的な評価に基づきます。
短縮制度が対象とする人々
この制度は、どのような背景を持つ人々を想定しているのでしょうか。
不法滞在から脱却したい方々
不法滞在となってしまったケースは多様です。ビザの更新を失念した、就労禁止のビザで働いていた、失業により就労資格を失った、など理由はさまざまです。
こうした方々の中には、日本に長く生活基盤を築いている人も少なくありません。配偶者や子どもが日本人、長年同じ地域で働いていた、地域社会との関係が深いといった事例です。
従来は「不法滞在=強制送還、かつ長期の上陸拒否」という一律の対応がなされていました。しかし、事情によって不法滞在に至った方で、日本での生活基盤がある場合、この制度により新たな道が開けるのです。
難民申請中の方々
難民申請は、本国での迫害や危機から身を守るための重要な制度です。しかし難民申請の手続が長期化し、その過程で何らかの理由で入管法違反となってしまうケースもあります。
難民認定を求める方でも、手続上の問題が生じることがあります。短縮制度は、こうした複雑な状況にある方々にも救済の道をもたらすものです。
生活基盤を持つ方々への配慮
この制度の特徴は、「日本に生活基盤がある」という要素を重視していることです。日本での就職、親族関係、子どもの教育環境、長年の地域とのつながりといった事情が、短縮の判断において参酌されます。
これは、「どのような経緯であれ不法滞在は許されない」という厳格な原則を維持しながらも、現実的な人間の事情に配慮する制度設計といえます。
短縮申請の実務的なポイント
短縮制度を活用する際には、いくつかの実務的なポイントがあります。
入管法52条5項における申請手続
入管法52条5項は、短縮申請の法的根拠です。この規定により、退去強制手続の過程において、短縮決定の申請が可能になります。
申請の時期は、退去強制手続が進行している段階です。タイミングを失すれば、申請の機会が失われてしまいます。そのため、専門家の助言を求め、適切なタイミングで申請することが極めて重要です。
素行と経緯の説明資料
短縮が「相当と認められる場合」という判断には、本人の素行と経緯の説明が大きく影響します。
素行とは、入管当局の指示への従順性、その後の生活態度、地域での評価などです。経緯とは、不法滞在に至った背景と現在の状況です。これらを客観的かつ説得力を持って説明する資料が必要になります。
具体的には、勤務先からの推薦状、居住地域の地域組織からの評価、家族関係を示す公式文書、出国後の生活計画など、多くの補助資料が役立ちます。
相当性の判断基準
「相当と認める場合」は、法律上明確に定義されていません。そのため、個別事案ごとに、入管当局による判断が行われます。
過去の判例や行政実務の流れから、以下のような要素が重視されることが多いとされています。
日本での居住期間の長さは重要です。短期間の滞在よりも、数年以上の長期にわたって日本に生活基盤を持つ場合、相当性の判断が有利に働く傾向があります。
家族関係の存在も影響します。日本人配偶者や日本国籍の子ども、あるいは扶養を必要とする親族の存在は、人道的配慮の対象となります。
また、本人の経済的自立性、地域社会への貢献、および出国後の生活設計の現実性なども総合的に評価されます。
強制送還の自発的受け入れを促す政策意図
この制度が創設された背景には、重要な政策意図があります。
強制送還から自発的出国へのシフト
従来、退去強制手続は、本人の意思に関わらず強制的に実行されていました。この方式には、費用や行政負担の課題がありました。
短縮制度により、本人が自発的に出国することを促すことで、より円滑で人道的な手続が可能になります。自発的に出国する者であれば、強制的な身体拘束や飛行機への強制搭乗といった手続が不要になるのです。
行政効率と人権配慮のバランス
この政策は、単なる効率追求ではなく、人権配慮とのバランスを意識しています。不法滞在は入管法違反ですが、その人の人生に深刻な影響を与えることも事実です。
短縮制度により、違反行為への厳格な対応と人道的配慮の両立が図られているのです。
再出発の機会の提供
上陸拒否期間が5年や10年から1年に短縮されることで、対象者の人生における「再出発」の期間が大幅に短縮されます。
これは、本国で生活を再構築し、再び日本への入国を目指す道を開くものです。制度は、対象者に新たな人生設計の機会をもたらします。
短縮制度の申請における重要な注意点
この制度を利用する際には、複数の重要な注意点があります。
申請後の不利益リスク
短縮申請は、入管当局に対して「自発的に出国する意思がある」ことを伝える行為です。このため、申請後は、申請を撤回することが困難になる可能性があります。
十分な検討と専門家の助言を得た上で、申請を決断することが重要です。一度申請した後に「やはり出国したくない」と言っても、状況が大きく変わってしまう可能性があります。
対象性の慎重な見極め
すべての不法滞在者が短縮制度の対象になるわけではありません。素行や経緯によっては、短縮が認められない場合もあります。
申請前に、自分の事案が本当に短縮の可能性があるかどうかを、慎重に検討する必要があります。見通しの甘い申請は、むしろ状況を悪化させかねません。
必須となる専門家の関与
入管法52条5項に基づく申請は、複雑な法的手続です。単独で対応することは極めて困難です。
行政書士などの専門家に相談し、事案に応じた最適な戦略を立案することが不可欠です。申請書類の作成、補助資料の整備、タイミングの判断など、多くの専門的判断が必要になります。
行政書士への相談が重要な理由
上陸拒否期間の短縮申請は、高度な専門知識と実務経験を必要とします。
個別事案ごとの最適な対応策の検討
短縮が認められるかどうかは、個別事案ごとに異なります。あなたの人生背景、日本での生活基盤、素行と経緯、出国後の生活設計など、すべての要素が評価対象になります。
行政書士は、これらの要素を総合的に分析し、あなたの事案に最適な対応方法を提案することができます。
申請書類の適切な作成
申請に際しては、入管当局を説得できる質の高い申請書類が必須です。単なる形式的な記載では足りません。
あなたの状況、経緯、事情を、法的観点から最も効果的に説明する書類の作成は、専門家の役割です。
補助資料の戦略的な整備
素行と経緯を証明するための補助資料は、単に「あれば良い」というものではなく、戦略的に整備される必要があります。
どのような資料が、入管当局を最も説得するのか、その判断も専門家が行うべき領域です。
行政当局との適切なコミュニケーション
申請後、入管当局から照会や追加資料の求めがあることも少なくありません。これらへの対応も、専門家を通じて行うことで、より有利に進める可能性が高まります。
不法滞在と難民申請の関係
複雑な背景を持つ方も多いため、不法滞在と難民申請の関係についても触れておきます。
難民申請と入管法違反の重複
難民申請をしている方でも、その過程で何らかの入管法違反が生じることがあります。例えば、難民申請の手続が長期化する中で、一度許可が得られた在留期間を超えてしまうケースなどです。
こうした場合、難民申請という正当な権利を行使していても、入管法違反という事実が存在することになります。短縮制度は、こうした複雑な状況にある方々にも適用の可能性があります。
難民認定と退去強制手続の並行関係
難民認定の審査と退去強制手続が並行して進むことがあります。複雑な手続環境の中で、適切な対応をすることが重要です。
この場合、短縮制度の活用も含めた総合的な戦略を立案することが、将来の人生に大きく影響します。
よくある質問と回答
Q
短縮申請をしても、認められない場合はありますか。
A
はい、あります。短縮が認められるかどうかは、あなたの素行、経緯、日本での生活基盤など、多くの要素に基づいて個別に判断されます。入管当局が「相当と認める場合」という法的要件を満たさなければ、短縮は認められません。重大な犯罪歴がある、出国後の生活計画が不現実的であるなど、相当性が認められない事情がある場合は、短縮決定が下されないことがあります。そのため、申請前に専門家に相談し、自分の事案が短縮の対象になりうるかどうかを見極めることが極めて重要です。
Q
退去強制令書が既に発付されています。今からでも短縮申請は可能ですか。
A
退去強制令書の発付後でも、短縮申請は可能です。ただし、タイミングが重要です。退去強制手続のどの段階にあるかによって、申請の方法が異なります。既に令書が発付されている場合、迅速に専門家に相談する必要があります。時間が経つほど、申請の機会が狭まる可能性があるためです。
Q
不法滞在をしていた期間が短い場合、短縮は認められやすいですか。
A
不法滞在の期間は、相当性判断の一つの要素ですが、唯一の基準ではありません。短い期間の不法滞在であっても、その間の素行や経緯が問題あれば、短縮が認められない可能性があります。逆に、長期間の不法滞在であっても、その間に日本社会への適応実績、家族関係の形成、地域への貢献が顕著であれば、短縮が検討される可能性があります。重要なのは、総合的な評価です。
Q
出国後、再び日本に入国することは可能ですか。
A
可能です。短縮により上陸拒否期間が1年に設定された場合、その1年の経過後に、改めて在留資格の申請や就労ビザの取得を目指すことができます。もちろん、新たな申請には、改めての審査が行われます。出国後の生活経験や変化が、その後の申請に好影響を与える可能性もあります。
Q
家族が日本にいます。短縮申請は家族にどのような影響がありますか。
A
家族の存在が、あなたの短縮申請における相当性判断に好影響を与える可能性があります。一方で、出国後の家族の生活が直接的に影響を受けることになります。短縮申請の判断にあたっては、家族を含めた生活全体の現実的な影響を慎重に検討する必要があります。家族の日本での居住権や生活の継続性など、複数の要素が関係しますので、専門家と共に検討することが不可欠です。
まとめ
令和5年の入管法改正により、上陸拒否期間の短縮制度が創設されました。これは、不法滞在や難民申請の過程で入管法違反となった方々に対し、一定の条件下で新たな人生設計の機会をもたらす重要な制度です。
この制度の活用には、高度な専門知識と戦略的な対応が必須です。あなたの状況、経緯、事情は他に類を見ない固有のものです。その固有性を、法的観点から最大限に説得力を持って説明することが、短縮決定への道を開くのです。
不法滞在や退去強制手続についてお悩みの場合、専門家である行政書士に早期に相談されることを強くお勧めします。ご自身の将来にかかわる重要な決断だからこそ、専門的な支援を受けることが極めて重要です。
当事務所では、こうした複雑な入管法関連の案件について、豊富な実務経験と専門知識に基づき、ご依頼者様の最適な解決策の提案に努めています。ご不明な点やご相談がございましたら、いつでもお気軽にお問い合わせください。
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