外国人の相続で注意すべき点とは?日本に在留する外国人が亡くなったときの準拠法・必要書類・在留資格への影響を行政書士が解説
2026/10/12
日本に暮らす外国人の方やそのご家族が亡くなったとき、残されたご家族は深い悲しみのなかで、さまざまな手続きに向き合わなければなりません。
その手続きが、日本人どうしの相続と同じ流れで進むとは限らないことをご存じでしょうか。
外国人が関わる相続は、国際相続と呼ばれる分野にあたり、日本の法律だけでは答えが出ない場面が数多くあります。
どの国の法律で相続人が決まるのか。
戸籍がない国の出身者であれば、親族関係をどうやって証明するのか。
亡くなった方の家族として日本に在留していた場合、ビザはどうなるのか。
この記事では、在留外国人の相続について、ご家族の状況別に注意点を整理してお伝えします。
この記事でわかること
・外国人が亡くなった場合に、どの国の法律が適用されるのかという基本の考え方
・配偶者が日本人の場合と、家族全員が外国人の場合とで、手続きがどう変わるのか
・戸籍に代わる書類(宣誓供述書やサイン証明など)の考え方
・亡くなった後に残された家族の在留資格がどうなるのか
・銀行口座の手続き、相続登記の義務化、相続税の基本的な注意点
まず確認したい、相続に適用される法律(準拠法)
外国人が関わる相続で最初に押さえたいのが、どの国の法律で相続の中身が決まるのかという点です。
日本の法の適用に関する通則法では、相続は亡くなった方(被相続人)の本国法によると定められています。
本国法とは、その方が国籍を持つ国の法律のことです。
つまり、亡くなったのが外国人であれば、日本に長く住んでいたとしても、原則としてその方の母国の相続法が基準になります。
誰が相続人になるのか。
法定相続分はどうなるのか。
こうした中身の部分が、母国の法律で決まるわけです。
日本の感覚とは範囲が違うことがある
日本の民法では、配偶者と子どもがいれば、親やきょうだいは相続人になりません。
ところが、国によっては、配偶者と子どもがいる場合でも、亡くなった方の親にも相続分を認めるなど、相続人の範囲や割合が日本と異なることがあります。
日本の感覚で進めてしまうと、あとから本来の相続人が現れて手続きがやり直しになる、という事態にもなりかねません。
反致(はんち)により日本法が適用される場合
もう一つ知っておきたいのが、反致という考え方です。
本国の法律が、相続について亡くなった方の住所地の法律や、不動産の所在地の法律に従うと定めている場合があります。
そのとき、日本が住所地や所在地にあたるなら、日本の法律が適用されることがあります。
英米法系の国の出身者に、こうした仕組みが問題になることが多いといわれています。
どの国の法律が、どこまで適用されるのかは、亡くなった方の国籍や財産の種類によって変わります。
本国法の内容そのものを調べる必要もあるため、早めに専門家へ確認することをおすすめします。
日本人が亡くなった場合は日本の民法が基本
反対に、亡くなったのが日本人で、相続人に外国人が含まれる場合は、日本の民法が適用されます。
相続人の国籍にかかわらず、法定相続分は日本の民法にそって決まります。
ケース別に見る注意点
ここからは、ご家族の状況別に、よくあるケースを整理していきます。
ケース1 外国人が亡くなり、配偶者が日本人の場合
日本人の配偶者がいる場合は、日本の戸籍に婚姻の記載があるため、婚姻関係の確認は比較的スムーズに進みます。
相続税の申告でも、配偶者の税額軽減を利用できます。
この制度は、配偶者が取得した財産が、1億6000万円または配偶者の法定相続分相当額のいずれか多い金額までであれば、原則として相続税がかからないというものです。
ただし、注意したいのは、亡くなった外国人の本国法で相続人の範囲が決まるという点です。
日本人の配偶者とお子さんだけで話し合えば足りると思っていたら、本国法では亡くなった方の親にも相続権があった、というケースも考えられます。
配偶者が日本人であっても、準拠法の確認は欠かせません。
ケース2 外国人が亡くなり、相続人も全員外国人の場合
最も手続きが難しくなりやすいのが、このケースです。
日本のような戸籍制度を持つ国は、世界的にはそれほど多くありません。
そのため、親族関係を証明する書類を、本国の制度にあわせて集める必要があります。
たとえば、次のような書類が候補になります。
・出生証明書、婚姻証明書、死亡証明書など、本国の公的機関が発行する証明書
・相続人が誰であるかを説明する宣誓供述書(本国の公証人や大使館などの前で宣誓し、署名したもの)
・外国語で書かれた書類すべてについての日本語訳
どの書類がどこまで必要かは、手続きを行う銀行や法務局などによって異なります。
事前に提出先へ確認しておかないと、集めたあとで追加を求められることもあります。
印鑑証明書の代わりになる、サイン証明
遺産分割協議書には、通常、実印を押印して印鑑証明書を添えます。
しかし、印鑑登録の制度に馴染みのない国の出身者も多く、外国にお住まいの相続人は印鑑証明書を取得できません。
そのような場合は、署名をしたうえで、本国の領事機関や公証人などが発行するサイン証明(署名証明)を添える方法がとられます。
なお、日本に住民登録をしている外国人の方は、日本で印鑑登録ができます。
同じ相続人でも、日本に住んでいるか海外に住んでいるかで、必要な書類が変わってくる点にも注意が必要です。
ケース3 日本人が亡くなり、配偶者や子が外国人の場合
相続の中身は日本の民法で決まるため、法定相続分の考え方は日本人どうしの場合と変わりません。
一方で、実務では、外国人の相続人に必要な書類の準備が負担になることがあります。
特に、外国にお住まいの相続人がいる場合は、サイン証明や翻訳の準備に時間がかかることを見込んでおきましょう。
そして、見落とされやすいのが、残された外国人の在留資格への影響です。
この点は、次の章で詳しくお伝えします。
亡くなった後の在留資格はどうなる?
在留外国人の相続では、財産の手続きとあわせて、残されたご家族の在留資格も大きな課題になります。
日本人の配偶者等の在留資格で暮らしていた方の場合
日本人の配偶者として在留していた外国人の方は、配偶者が亡くなると、在留資格の前提となる身分関係に変化が生じます。
まず、配偶者と死別したときは、14日以内に出入国在留管理局へ届け出る必要があります。
また、配偶者としての活動を継続して6か月以上行わずに在留していると、正当な理由がある場合を除き、在留資格の取消しの対象になる可能性があります。
そのため、「死別してから6か月以内に必ず手続きが必要」と単純に決まっているわけではありませんが、放置しておくのは危険です。
引き続き日本で暮らしたい場合には、定住者など別の在留資格への変更が検討されます。
どの在留資格が見込めるかは、婚姻期間、お子さんの有無、日本での生活基盤など、個別の事情によって大きく変わります。
早い段階で在留資格の見通しを立てておくことが、生活を守ることにつながります。
外国人の家族として滞在していた方の場合
家族滞在などの在留資格で、働いている外国人の家族として日本に滞在していた方も同様です。
扶養者である方が亡くなると、在留資格の基礎となっていた関係が失われます。
在留期間が残っているあいだに、就労系の在留資格への変更や、ほかの在留資格への切り替えが可能かどうか、検討する必要があります。
在留カードの返納も忘れずに
亡くなった方が在留カードを持っていた場合は、親族または同居者が、死亡の日から14日以内に在留カードを返納することになっています。
悲しみのなかでも、期限のある手続きが複数あることを、頭の片隅に置いておいてください。
亡くなった直後から始まる手続きの流れ
外国人が亡くなったとき、おおまかには次の順で手続きが進みます。
・死亡届の提出(日本国内で亡くなった場合は、原則として死亡の事実を知った日から7日以内)
・在留カードの返納(死亡の日から14日以内)
・本国の大使館や領事館への届出(国によって必要かどうかや方法が異なります)
・相続人の確定と、本国法の内容の確認
・財産の調査(預貯金、不動産、保険、有価証券など)
・遺産分割協議と、協議書の作成
・預貯金の解約や名義変更、不動産の相続登記
・相続税の申告が必要な場合は、その準備と申告
特に、相続人の確定と書類収集の段階は、本国の機関とのやりとりが入るため、思った以上に時間がかかります。
実務で特に注意したいポイント
銀行口座は凍結される
金融機関は、口座名義人が亡くなったことを知ると、口座を凍結します。
その後、解約や払戻しを行うには、相続人全員を確認できる書類と、遺産分割協議書などが必要になります。
外国人が関わる場合は、宣誓供述書や翻訳文の準備に数か月以上かかることも珍しくありません。
その間の生活費や葬儀費用をどうするかも、早めに考えておきたいところです。
不動産がある場合は相続登記が義務に
日本国内に土地や建物を持っていた場合は、相続登記も大切な手続きです。
2024年4月から、相続登記は義務になりました。
不動産を相続したことを知った日から3年以内に登記をしないと、10万円以下の過料の対象になる可能性があります。
この義務は、外国籍の相続人にも同じように及びます。
遺産分割協議がまとまらず、期限までに登記が難しい場合には、相続人申告登記という簡易な制度を使って、義務を果たす方法もあります。
登記そのものは司法書士の業務になりますので、不動産がある場合は、司法書士とも連携して進めることになります。
相続税は、国をまたぐと判断が複雑になる
相続税の申告は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内が期限です。
外国人が関わる相続では、日本国内の財産だけが課税されるのか、海外にある財産も含めて課税されるのかが、亡くなった方や相続人の国籍、住所、在留資格などの組み合わせで決まります。
この判定のルールは、これまでに何度も改正されてきました。
たとえば、日本に短期間在留する外国人の方が亡くなった場合と、長く日本で暮らし、永住者の在留資格を持っていた方が亡くなった場合とでは、課税の範囲が異なることがあります。
また、日本と本国の両方で相続税や遺産に関する課税が行われる場合には、二重課税を調整するための制度(外国税額控除)を利用できることがあります。
税金の判断は、必ず税理士に確認してください。
当事務所のような行政書士事務所は、税務相談を行うことはできませんが、税理士と連携しながら、書類の面で全体をサポートすることはできます。
専門家の役割分担を知っておこう
外国人の相続は、手続きの種類が多く、専門家の役割も分かれます。
・行政書士:遺産分割協議書や相続関係書類の作成、書類収集のサポート、在留資格に関する手続き
・司法書士:不動産の相続登記
・税理士:相続税の申告や税務相談
・弁護士:相続人どうしの紛争や、裁判手続き
はじめに、全体の見通しを立てる窓口として、行政書士にご相談いただくのも一つの方法です。
在留資格と相続の両方が絡む案件では、入管手続きと相続書類の両面を見ながら進められる点が、強みになります。
生前にできる備え
外国人の相続で、ご家族の負担を軽くするためには、生前の準備が何より役に立ちます。
・遺言書の作成(日本に財産がある場合は、日本の方式で作成しておくと手続きが進めやすくなります)
・日本と本国にある財産の一覧づくり
・家族関係を証明できる書類の保管(出生証明書、婚姻証明書など)
・日本の銀行口座や不動産の情報を、家族が把握できるようにしておくこと
・日本に在留する家族の在留資格や期限の確認
なお、遺言の中身がどの国の法律で判断されるのかという点にも、本国法が関係してきます。
遺言書を作る際は、あらかじめ専門家に確認しておくと安心です。
よくあるご質問(Q&A)
Q1 外国人の相続でも、日本の民法は使えますか?
亡くなった方が日本人の場合は、日本の民法が適用されます。
亡くなった方が外国人の場合は、原則として本国の相続法が基準になりますが、反致により日本法が適用されることもあります。
まずは、亡くなった方の国籍を確認することが出発点です。
Q2 外国人の相続人が日本にいない場合、どうすればよいですか?
海外にお住まいの相続人の方は、印鑑証明書を取得できないことが多いため、サイン証明などを用意して手続きを進めます。
連絡や書類のやりとりに時間がかかるため、早めに相続人全員の連絡先を確認しておきましょう。
Q3 戸籍がない国の出身者の場合、相続人はどうやって証明しますか?
出生証明書や婚姻証明書などの公的な証明書に加えて、宣誓供述書を使う方法があります。
必要な書類は、提出先によって異なるため、事前に確認することが大切です。
Q4 日本人の夫が亡くなりました。外国人の妻は日本にいられますか?
夫の死亡によって、在留資格の前提が変わるため、早めの確認が必要です。
死別の届出は14日以内です。
そのうえで、定住者など別の在留資格への変更が検討される場合がありますが、結果はご家庭の事情によって異なります。
Q5 相続登記をしないと、どうなりますか?
2024年4月から相続登記は義務化されており、知った日から3年以内に登記をしないと、過料の対象になる可能性があります。
期限内に難しい場合は、相続人申告登記などの制度を検討します。
Q6 外国にある財産にも、日本の相続税はかかりますか?
亡くなった方と相続人の国籍、住所、在留資格などによって決まります。
ケースごとに判断が異なるため、税理士に確認することをおすすめします。
Q7 行政書士には、どこまで依頼できますか?
遺産分割協議書など、相続に関する書類の作成や、在留資格に関する手続きをご依頼いただけます。
登記は司法書士、税務は税理士の業務ですので、必要に応じて連携して進めます。
まとめ 外国人の相続は、早めの見通しづくりがカギ
最後に、この記事のポイントを振り返ります。
・相続は、亡くなった方の本国法が基準になる(反致により日本法が適用される場合もある)
・配偶者が日本人でも、本国法による相続人の範囲の確認が欠かせない
・家族全員が外国人の場合は、宣誓供述書やサイン証明、翻訳の準備が中心になる
・亡くなった後は、残された家族の在留資格や、在留カードの返納期限にも目を配る
・相続登記は義務化されており、外国籍の相続人にも適用される
・相続税は国をまたぐと判断が複雑なので、税理士に確認する
外国人の相続は、国際私法、各国の身分法、入管法、税法が重なり合う分野です。
ご自身で進めようとして、銀行の手続きや登記で足止めされてしまう方も少なくありません。
当事務所では、在留資格の知識を活かしながら、相続に必要な書類づくりや手続きの整理をお手伝いしています。
何から始めればよいかわからない段階でも、構いません。
お話をうかがい、状況を整理するところから、一緒に進めてまいります。
どうぞお気軽に、お問い合わせフォームやお電話からご相談ください。
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