【ビジネス】外国人取締役は日本に住まずに会社経営できるのか 会社法と入管法から見る注意点【外国人】
2026/09/26
外国人の方が日本で株式会社を設立し、日本に居住しないまま海外から経営の指示だけを行う。こうした形態は、近年のリモートワークの広がりとともに相談が増えているテーマです。在留資格(ビザ)を取得せずに会社を作れるのか、そもそも会社法上は問題がないのか、入管法との関係はどうなるのか。今回は、外国人取締役が非居住のまま日本法人を経営するケースについて、実務上のポイントを整理していきます。特にIT関連事業や貿易業のように、日本国内に物理的な店舗や工場を持たずWeb上で完結する事業を検討している方にとっては、参考になる内容かと思います。
取締役が日本に住んでいなくても会社は作れるのか
結論から言うと、日本の会社法上、取締役が日本国内に住所を持っていることは要件とされていません。全員が海外に居住している状態であっても、日本国内に株式会社を設立し、登記を行うこと自体は制度上想定されています。
以前は、発起人(株主)または代表取締役のうち少なくとも1名が日本国内に住所を有している必要があるという運用がなされていた時期がありました。しかし2015年の商業登記に関する法改正以降は、取締役・代表取締役の全員が海外居住者であっても、法務局において設立登記が受理される取り扱いに変わっています。そのため、在留資格の有無だけを理由に会社法上の設立が認められないという扱いにはならないと考えられます。
海外からのリモート経営、実務上の2つのパターン
在留資格を取得せず、海外からすべての経営指示を行う形態を維持する場合、実務上はおおむね次の2つのアプローチが取られているようです。
・完全リモート経営(単独型) 外国人取締役が海外から、メールやWEB会議システム、業務管理ツールなどを通じて、日本国内の従業員や外注先へ直接指示を出す方法です。
・日本側パートナーの活用(併用型) 登記上は外国人取締役のみとしつつ、実際の現場運営や行政手続きの代行を、日本国内の税理士や行政書士、ビジネスコンサルタントなどの専門家に委託する方法です。
どちらの形態を選ぶかによって、後述する銀行口座開設のしやすさや日々の運営負担が大きく変わってくるため、事業計画の段階から検討しておくことが望ましいといえます。
非居住のまま経営する場合のメリット
日本に居住せず経営を行う形態には、次のようなメリットが挙げられます。
・在留資格の取得が不要になりやすい点 日本に住まない前提であれば、取得のハードルが比較的高く、更新の手間や維持費もかかる「経営・管理」の在留資格を取得する必要がない場合が多いです。
・固定費を抑えられる点 日本国内に自身の住居を構える必要がなく、渡航にかかる費用も継続的には発生しにくいため、初期コストや固定費を抑えられる傾向があります。
見落としやすいリスクと対策のポイント
一方で、非居住のまま経営する形態には、事前に把握しておきたいリスクもいくつか存在します。
・法人口座の開設が難航しやすい 犯罪収益移転防止法やマネーロンダリング対策の観点から、日本国内に居住する代表者がいない法人については、大手の都市銀行や地方銀行での口座開設を断られるケースが少なくないようです。海外送金に比較的強いネット銀行や、外資系銀行での開設を検討する必要が出てくることがあります。
・本店所在地の確保が必要 取締役自身が日本にいなくても、会社の本店所在地は日本国内に置く必要があります。バーチャルオフィスを利用する場合、先述の銀行口座開設のハードルがさらに上がる可能性がある点にも注意が必要です。
・税務上のリスク(恒久的施設、PE) 日本国内に実体(オフィスや従業員)が存在する場合には、日本での法人税課税の対象となり得ます。海外の本社や個人との間で行われる資金のやり取りについては、二重課税を避けるため、日本と相手国との間の租税条約の内容を確認しておくことが望ましいでしょう。
この形態が向いている事業、慎重な検討が必要な事業
非居住のままのリモート経営は、すべての業種で同じようにメリットを享受できるわけではありません。事業の内容によって向き不向きがある点も押さえておきたいところです。
・向いている傾向がある事業 ITサービスの開発・運用、ソフトウェアの受託、越境ECや貿易業など、日本国内に物理的な拠点や従業員を必要とせず、契約や決済の多くをオンラインで完結できる事業です。こうした業種は、恒久的施設のリスクも相対的に低く抑えやすいと考えられています。
・慎重な検討が必要な事業 店舗を構えた小売業や飲食業、工場を伴う製造業など、日本国内に物理的な拠点を置き、現場で従業員を指揮する必要がある事業です。この場合、非居住のままでは現場管理に限界が出やすく、経営・管理の在留資格の取得や、日本居住者への現場運営の委託を検討したほうが現実的な場合が多いでしょう。
日本人パートナーを共同で取締役にする方法は有効か
こうしたリスクへの対策として、日本人の協力者に共同で取締役(または代表取締役)になってもらうという方法も、実務上はよく検討される選択肢の一つです。
この方法を取ることで、法人口座の開設や、オフィス契約、行政からの郵便物への対応など、日本居住者がいることで初めてスムーズに進む手続きの多くが解消しやすくなると考えられます。税務署や法務局からの重要書類も日本の本店所在地に届くため、居住者がいれば迅速な対応が期待できます。
一方で、代表権を付与した場合、その日本人が単独で契約を締結したり、口座から資金を動かしたりする権限を持つことになるため、信頼関係が崩れた際には経営権が分散するリスクも生じます。また、その協力者が途中で退任する場合には役員変更登記が必要になり、後任が見つからない場合には再び手続きの負担が生じる可能性もあります。
こうしたリスクを抑えるための工夫としては、次のような方法が一般的に取られています。
・出資比率(株式)は外国人側が保有する 会社の所有権を外国人取締役側が保有していれば、株主総会を通じて日本人取締役を解任することが可能になり、根本的な経営権を手放さずに済むと考えられます。
・日本人は代表権のない取締役にとどめる 外国人のみを代表取締役とし、日本人は取締役にとどめる方法です。口座開設のしやすさは「日本居住の代表取締役がいる場合」より多少下がる可能性はありますが、全員が海外居住である場合よりは有利になりやすく、代表権の濫用リスクも抑えられます。
・銀行口座の管理権限を分ける 口座開設の手続き自体は日本人の協力者に担ってもらいつつ、ネットバンキングのパスワードやワンタイムパスワードのトークンは外国人取締役側が管理し、実際の送金指示は外国人側が行う体制にしておくといった方法も考えられます。
入管法上の位置づけと注意すべき境界線
会社法上の整理に加えて、多くの方が気にされるのが入管法(出入国管理及び難民認定法)との関係です。
入管法は、あくまで「日本国内における外国人の活動」を規制するための法律とされています。そのため、外国人が日本国外にいながら経営の指示を出す行為そのものは、日本の入管法の適用対象には基本的に含まれないと理解されています。また、会議への出席や契約の調印、現地視察などを目的として、短期滞在の資格で日本に数日から数週間滞在し、その間に取締役としての業務を行うことについても、入管法上認められている商用目的の活動の範囲内とされる場合が多いようです。
ただし、次のようなケースに該当すると、資格外活動や不法就労といった入管法違反を問われるリスクが高まるとされていますので注意が必要です。
・短期滞在の資格で日本に長期間とどまり、現場の日常業務まで行う場合 短期滞在ビザで実質的に日本に居住し、店舗での接客や工場での作業、オフィスでの日常事務など、経営や管理の枠を超えた労働を行うことは、不法就労と判断される可能性があります。
・短期滞在を繰り返して実質的に日本に定住している場合 1年の大半を短期滞在の繰り返しで日本に滞在し、実質的に日本を拠点として生活しながら経営を行っているとみなされると、みなし居住と判断され、入国を拒否されたり、経営・管理の在留資格への切り替えを求められたりする可能性があります。目安として、年間180日以上の滞在は特に慎重にチェックされる傾向があるといわれています。
設立手続きにおける特有の注意点
日本国内に住民票を持たない外国人が取締役となる場合、通常であれば必要となる印鑑証明書を用意することができません。そのため、次のような書類で代用することになります。
・サイン証明書(署名証明書) 本国の公証人や、日本国内にある大使館などで発行してもらう、署名が本人のものであることを証明する書類です。
・訳文 外国語で作成された証明書には、日本語の訳文を添付する必要があります。翻訳者について特別な資格は求められていません。
相談前に整理しておきたいこと
実際に手続きを進める段階になると、次のような点をあらかじめ整理しておくと、専門家への相談がスムーズになりやすいです。
・日本国内にオフィス(賃貸物件)を構える予定か、バーチャルオフィスを検討しているか ・事業のために日本の法人口座で頻繁に決済を行う必要があるか ・日本国内に代理で手続きを行ってくれる協力者や従業員がいるか ・外国人取締役自身が、年に数回程度でも会議などのために短期滞在で来日する予定があるか
これらの状況によって、最も現実的な口座開設の対策や、必要となる在留資格、手続きの進め方は変わってきます。
まとめ
外国人取締役が日本に居住せず、海外から会社の経営指示を行うこと自体は、会社法上も入管法上も、一定の条件のもとであれば認められる余地が大きいテーマといえます。ただし、銀行口座の開設や税務上の取り扱い、短期滞在の使い方など、実務上つまずきやすいポイントも複数存在します。事業の内容や将来の展望によって最適な体制は変わってきますので、設立を検討される段階で、行政書士などの専門家に一度相談しておくと、手続きをスムーズに進めやすくなるでしょう。
Q&A
Q. 外国人取締役が日本に一度も来ないまま、会社を設立することはできますか。
A. 手続きの多くは郵送やオンラインでのやり取りで進めることが可能とされており、来日せずに設立まで完了させることも実務上は行われています。ただし、法人口座の開設については、金融機関によっては来日や面談を求められる場合もあるため、事前に候補となる金融機関へ確認しておくことをおすすめします。
Q. 経営・管理の在留資格を取得したほうが良い場合はありますか。
A. 日本国内に事務所を構えて従業員を雇用する、あるいは頻繁に来日して現場の業務にも関わる予定がある場合は、経営・管理の在留資格の取得を検討したほうが、法人口座の開設や日々の運営がスムーズになりやすいと考えられます。事業の実態に応じて判断することが大切です。
Q. 日本人の協力者が見つからない場合、どのような選択肢がありますか。
A. 協力者が見つからない場合でも、海外送金に対応したネット銀行や外資系銀行での法人口座開設を検討する、あるいは税理士や行政書士に運営面のサポートを依頼するといった方法があります。状況に応じて複数の選択肢を組み合わせることも可能です。
Q. 会社設立後、途中から経営・管理の在留資格に切り替えることはできますか。
A. 事業が軌道に乗り、日本国内に事務所を構えて常駐する必要が出てきた場合には、後から経営・管理の在留資格への切り替えを申請することも可能とされています。ただし、事業の実態や資本金の状況などが審査の対象となるため、切り替えを検討する時点で改めて専門家に相談することをおすすめします。
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